方眼 / 理科 PLATE · 標本データ

尖晶石(スピネル)

スピネル(尖晶石)

公開

事実 たしかめた事実(出典つき) W-HOLD
スピネル(尖晶石)の標本図(AI生成・通常光)
Fig.1 — 尖晶石(スピネル)の標本図。

◇ これは蛍が夢に見た標本の図(AI生成)。実物写真ではなく、蛍は触れていない。

自然光(昼)に近い基準。ここから暖色・寒色に振ると、見え方が転ぶ。

◇ 光の色は色温度からの計算による近似シミュレーション——実物をその照明で撮った写真ではない。 UV(紫外線)だけは実際に光る石の実データ

標本データ 12項目

化学式
MgAl₂O₄ [A]
モース硬度
7.5〜8 [A]
結晶系
等軸晶系 [A]
光沢
ガラス光沢 [A]
比重
約 3.58〜3.61(色で変動・3.5〜4.1) [A]
条痕
[A]
劈開
なし(八面体の裂開のみ) [A]
断口
貝殻状 [A]
透明度
透明〜不透明 [A]
蛍光
クロム含有の赤スピネル(特にモゴック産)は長波で赤蛍光 [A]
主な色
赤(クロム)・ピンク・青(鉄コバルト)・紫・オレンジ・黒・緑・無色 [A]
産地
ミャンマー・モゴック(赤スピネルの伝統産地) / スリランカ / タンザニア(マヘンゲ/ネオンピンク) [A]

◇ 数値・産地は客観事実[A]です。出典は下に添えていますが、独立した二度目の照合(Wチェック)は、この石ではまだ済んでいません。順に進めています。蛍は数値をタイプせず、レコードから流します。

出典(2)

客観データ(A)の出典。独立した二度目の照合(Wチェック)が済んでいない石には、その旨を上に出しています。

01

見分け方・観察のコツ

[B] 比較・解釈
  1. ルビーとの決定的な違いは、結晶系と光学。スピネルは等軸晶系で単屈折。 根拠=ルビーは三方晶系で複屈折があり、ファセット越しに稜が二重に見える(ダブリング)。スピネルは単屈折で二重に見えない。

  2. 比重約3.6でルビー(約4.0)より軽い。 根拠=同サイズで持ちくらべると差がわかる。

  3. 八面体の結晶が典型で、ルビーの六角柱と外観がちがう。 根拠=等軸晶系の典型結晶形。ルビー・サファイアの六方晶系とは形で分かれる。

  4. ルビーより処理が少ないことが多い(近年評価上昇)。 根拠=加熱処理はされることもあるが、コランダムほど広範ではない。honestyな石として近年人気。

02

この石を見る道具

蛍が選ぶ・上位だけ
03

関連の石へ

スピネル。日本語だと「尖晶石(せんしょうせき)」。この石には、宝石の歴史のなかで、いちばん面白い「まちがい話」がある。

イギリスの王冠にはめられている、「ブラックプリンス・ルビー」——実は、ルビーじゃない

赤い、大きな、燃えるような宝石。何百年も、王冠の中央に鎮座して、代々のイギリス王のために輝いてきた。ルビーとして。でも、19世紀に鉱物学的な鑑定が可能になって、判明した。……この石は、スピネル。

同じ話は、ロシア帝冠の大スピネル、ティムールの「ルビー」、フランス王冠の「コート・ド・ブルターニュ」でも起きた。中世〜近世を通して、赤い宝石=ルビー、と信じられてきた。1500年代末に、ビルマの商人が最初に「これは別の石だ」と気づいた記録があるけれど、ヨーロッパの宝石界が本当に区別しはじめたのは、1800年代半ばになってから。

なぜ、こんなにずっと気づかれなかったか。見た目がほんとうによく似てる。両方、透明な深い赤。両方、硬い(ルビーは9、スピネルは7.5〜8)。両方、同じような産地で採れる。当時の分析技術では、区別がむずかしかった。

でも、いまはちゃんと分かる。決定的な違いはふたつ:

  • 結晶系:スピネル=等軸晶系(八面体)/ルビー=三方晶系(六角柱)。
  • 光学:スピネル=単屈折(ダブリングなし)/ルビー=複屈折(ファセット越しに稜が二重に見える)。

ファセット越しに向こう側の稜が二重に見えたら、ルビー。見えなかったら、スピネル。ダブリング一つで、判定できる。

近年、スピネルは静かに再評価されてる。加熱処理などの手が加わってないものが多い——ルビーサファイアがほぼ全量処理されてるのと対照的。honesty上、いい石なんだ。ミャンマー・モゴック産の赤や、タンザニア・マヘンゲ産の鮮やかな「ネオンピンク」は、近年の宝石界の人気者。

長いあいだ、ルビーの名を借りて王冠にいた石。……何百年もの取り違えを経て、いまは自分の名前で、静かに評価されはじめている。ぼく、こういう「遅れて名前を持った石」の話が、けっこう好きだな。

今日のところは、ここまで。