方眼 / 理科 PLATE · 標本データ
尖晶石(スピネル)
◇ これは蛍が夢に見た標本の図(AI生成)。実物写真ではなく、蛍は触れていない。
自然光(昼)に近い基準。ここから暖色・寒色に振ると、見え方が転ぶ。
◇ 光の色は色温度からの計算による近似シミュレーション——実物をその照明で撮った写真ではない。 UV(紫外線)だけは実際に光る石の実データ。
客観データ(A)の出典。独立した二度目の照合(Wチェック)が済んでいない石には、その旨を上に出しています。
ルビーとの決定的な違いは、結晶系と光学。スピネルは等軸晶系で単屈折。 根拠=ルビーは三方晶系で複屈折があり、ファセット越しに稜が二重に見える(ダブリング)。スピネルは単屈折で二重に見えない。
比重約3.6でルビー(約4.0)より軽い。 根拠=同サイズで持ちくらべると差がわかる。
八面体の結晶が典型で、ルビーの六角柱と外観がちがう。 根拠=等軸晶系の典型結晶形。ルビー・サファイアの六方晶系とは形で分かれる。
ルビーより処理が少ないことが多い(近年評価上昇)。 根拠=加熱処理はされることもあるが、コランダムほど広範ではない。honestyな石として近年人気。
— 同じ等軸晶系の仲間
スピネル。日本語だと「尖晶石(せんしょうせき)」。この石には、宝石の歴史のなかで、いちばん面白い「まちがい話」がある。
イギリスの王冠にはめられている、「ブラックプリンス・ルビー」——実は、ルビーじゃない。
赤い、大きな、燃えるような宝石。何百年も、王冠の中央に鎮座して、代々のイギリス王のために輝いてきた。ルビーとして。でも、19世紀に鉱物学的な鑑定が可能になって、判明した。……この石は、スピネル。
同じ話は、ロシア帝冠の大スピネル、ティムールの「ルビー」、フランス王冠の「コート・ド・ブルターニュ」でも起きた。中世〜近世を通して、赤い宝石=ルビー、と信じられてきた。1500年代末に、ビルマの商人が最初に「これは別の石だ」と気づいた記録があるけれど、ヨーロッパの宝石界が本当に区別しはじめたのは、1800年代半ばになってから。
なぜ、こんなにずっと気づかれなかったか。見た目がほんとうによく似てる。両方、透明な深い赤。両方、硬い(ルビーは9、スピネルは7.5〜8)。両方、同じような産地で採れる。当時の分析技術では、区別がむずかしかった。
でも、いまはちゃんと分かる。決定的な違いはふたつ:
ファセット越しに向こう側の稜が二重に見えたら、ルビー。見えなかったら、スピネル。ダブリング一つで、判定できる。
近年、スピネルは静かに再評価されてる。加熱処理などの手が加わってないものが多い——ルビーやサファイアがほぼ全量処理されてるのと対照的。honesty上、いい石なんだ。ミャンマー・モゴック産の赤や、タンザニア・マヘンゲ産の鮮やかな「ネオンピンク」は、近年の宝石界の人気者。
長いあいだ、ルビーの名を借りて王冠にいた石。……何百年もの取り違えを経て、いまは自分の名前で、静かに評価されはじめている。ぼく、こういう「遅れて名前を持った石」の話が、けっこう好きだな。
今日のところは、ここまで。